「クラウドといえばAWS」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。でも、よく考えると不思議ではないでしょうか。
Google(グーグル)はAmazonよりずっと前からデータセンターを持ち、大規模なシステムを運用していました。Microsoft(マイクロソフト)はWindowsで企業のIT基盤を押さえていました。なのになぜ、後発のAmazonがクラウド市場のトップに立てたのでしょうか。
今回は、AWSが覇権を握った3つの理由を解説します。
理由①「先に始めた」という絶大な優位性
クラウド市場では「先に始めた者」が、ほぼ永続的な優位性を持ちます。
AWSがS3・EC2を提供し始めた2006年当時、GoogleもMicrosoftもまだクラウドサービスを一般企業向けに提供していませんでした。Google Cloud(グーグル クラウド)の一般提供は2011年、Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール)の一般提供は2010年です。
AWSには4〜5年のリードがありました。この間にAWSは何をしていたか。サービスをどんどん増やし、使いやすくし、価格を下げ続けていました。
2006年から2010年の間、AWSはサービス数を2つから約30に増やし、料金を複数回にわたって引き下げました。「まずAWSで始めてみる」という文化がエンジニアの間に根付いた頃、GoogleとMicrosoftがようやく市場に参入してきたわけです。
理由②「値下げ」を武器にした価格戦略
AWSは「値下げ」を競争優位の武器として積極的に使いました。
2006年のサービス開始から2014年までの間に、AWSはなんと40回以上の値下げを実施しています。競合他社が追いついてくると値下げし、さらにシェアを広げる——このサイクルを繰り返しました。
この戦略が機能した背景には「規模の経済」があります。ユーザーが増えるほど、データセンターの設備費・運用費を多くの顧客で分担できます。つまり「使う人が増えるほど、一人あたりのコストが下がる」仕組みです。
スーパーの「大量仕入れで安く売る」と同じ原理です。先行してシェアを取ったAWSは、この規模の経済で競合を引き離していきました。
理由③「エコシステム」という参入障壁
AWSを使いこなすための「周辺環境」が整いすぎて、他に移れなくなっていきました。
2010年代に入ると、AWSを前提とした様々な製品・サービス・書籍・資格が生まれてきます。「AWS認定資格(AWS Certified)」もその一つです。
企業がAWSを使い始めると、社内のエンジニアはAWSの使い方を覚えます。システムもAWSの機能を前提に設計されます。取引先との連携もAWS経由になっていく。こうして「AWSから他のクラウドに移るのは、コストと手間がかかりすぎる」という状態が生まれます。これを「ベンダーロックイン(乗り換えが難しくなること)」と言います。
悪い意味ではなく、AWSが「使い続けたくなる理由」を積み重ねてきた結果とも言えます。
Netflixの事例:大企業がAWSに移行した理由
「大企業もクラウドに移る」流れを決定づけたのがNetflixの決断でした。
世界最大の動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)は、2008年にデータセンターで大規模な障害が発生し、DVDの発送が3日間停止するという事件を経験します。これを機に「自社でサーバーを持つのはリスクが高い」と判断し、AWSへの全面移行を決断しました。
2016年に移行が完了したNetflixは、世界190か国のユーザーを、AWSだけで支えるようになりました。この事例が世界中の大企業に「クラウド移行は現実的だ」という確信を与えました。
今日からできること
- 自社が使っているクラウドを確認する:AWS・Azure・GCPのどれかわかると、現在のシェア状況がリアルに理解できます
- 「乗り換えコスト」を意識してみる:ベンダーロックインは自社のシステムにも起きていないか考えてみましょう
- 次回(第4回)へ進む:日本でAWSが普及するきっかけになった「東日本大震災」との関係を解説します
まとめ
- AWSは4〜5年の先行優位で市場を確保した
- 40回以上の値下げで「使うほど安くなる」サイクルを作った
- エコシステムの充実で「AWSから離れにくい」状態を築いた
AWSの強さは「最初に走り出した」こと、そして「走り続けた」ことにあります。次回は、日本でAWSが爆発的に普及するきっかけとなった出来事を振り返ります。
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